リーダーシップとは、という書籍や研究も無数にありますが、おそらく、リーダーとして悩んでいる方は、情報が多すぎて何が正しいかわからないという方もいるのではないでしょうか。
ここでは、古代の社会や動物界において、リーダーとはどういう存在かについて、まずアウトライン的に捉えてみたいと思います。その上で、立場やチームに合わせて多少アレンジしていく方が楽なのではないでしょうか。
古代の人々はどう考えたか
古代の人々は、現代の「リーダーシップ」という言葉を直接使わなかったものの、リーダーシップの本質について深く考察していました。
古代の哲学者や指導者たちは、リーダーの役割や資質について様々な意見を述べています。
以下は、代表的な古代の思想家たちによるリーダーシップに関する見解です。
1. プラトン (紀元前427年 – 紀元前347年)
プラトンは著作『国家』において、理想的なリーダーを「哲人王」として描きました。
彼は、リーダーは知恵に基づいて統治するべきであり、個人の利益ではなく、国家全体の幸福を目指すべきだと主張しました。
プラトンは、リーダーシップにおいて最も重要なのは知識と倫理であり、リーダーは高い知性と道徳性を持つべきだと考えていました。
- 「最も有能な人々が支配者であるべきであり、国家の利益のために統治するべきだ。」(『国家』)
2. アリストテレス (紀元前384年 – 紀元前322年)
アリストテレスは『政治学』において、人々が集団で行動する際には必ずリーダーが必要であるとし、リーダーの資質を重視しました。
彼は、リーダーは「徳」に基づいて行動し、共同体の幸福を促進する責任を負うと説きました。また、リーダーは市民の信頼と敬意を勝ち得ることが重要だと述べています。
- 「リーダーシップには徳が必要である。リーダーは正義と公平さに基づいて行動しなければならない。」(『政治学』)
3. 孫子 (紀元前544年 – 紀元前496年頃)
中国の兵法家である孫子は『孫子の兵法』において、リーダーの役割を戦争における司令官と位置づけ、リーダーが持つべき資質を説いています。
孫子は、リーダーは知恵、信頼、慈愛、勇気、厳格さの5つの資質を兼ね備えるべきだと述べ、戦略的思考と統率力の重要性を強調しました。
- 「将軍は、知、信、仁、勇、厳を兼ね備えねばならない。」(『孫子の兵法』)
4. 老子 (紀元前6世紀頃)
道教の創始者である老子は、『道徳経』において、リーダーシップについて非常に控えめなアプローチを提案しました。
彼は、最良のリーダーはその存在を感じさせないものであり、人々が自然に従うように導くべきだと説きました。リーダーは自らの利益を追求せず、無為自然の状態を保つべきだという考えです。
- 「最良のリーダーは、人々が彼の存在を感じないものである。最もよいリーダーの下では、民衆は『私たちが自分たちで成し遂げたのだ』と言う。」(『道徳経』)
最近の「サーバント・リーダーシップ」になんとなくイメージが近いですね。
5. マキャヴェッリ (1469年 – 1527年)
古代の思想家ではありませんが、ルネサンス期の思想家であるマキャヴェッリもリーダーシップに大きな影響を与えた人物です。
彼の著作『君主論』では、リーダーは「愛されるよりも恐れられる方が良い」という現実的なアプローチを示し、効果的なリーダーシップは必ずしも道徳的である必要はないという考えを提唱しました。
- 「君主は、必要に応じて道徳を無視することができなければならない。」(『君主論』)
今の時代ではもはや危険思想に近いですね・・・。
しかしながら、国際情勢を見ていると、そういうリーダーがあちこちの国にいるような気もします。
まとめ
古代の思想家たちは、リーダーシップにおいて「知恵」「徳」「戦略」「道徳」などの要素を強調しており、それぞれの文化や時代背景に応じてリーダー像が異なっています。
しかし、共通して言えるのは、リーダーシップには人々を導くための高い資質や倫理観が求められ、リーダーはその行動によって社会や共同体をより良い方向へ導く責任を負うという考えがあったことです。
一方で、昨今の国際情勢を見ると、必ずしも国家や民族のリーダーに道徳や倫理観があるようには見えません。
もし、世界のほとんどが、こういったリーダーを求めている状態だとしたら、逆に私たちの考えるリーダー像がおかしく見えるかもしれません。
もちろん、道徳や倫理観は大切ですし、それがないリーダーからはいずれ人心が離れていくでしょう。ただ、その人心(国民)が、「そうは言ってもまず生活優先だ」という状況であれば、必ずしも人徳のあるリーダーを求めているとは限らないということもありえます。
国なんて大袈裟な話は興味ないよ、と言われるかもしれませんが、これは政治や経済においても同じことが成立するかもしれないと思います。
いわゆる汚職や不正・ハラスメントなど、不祥事がなくならないのは、集団において力を持つ人に道徳や倫理観が欠如している証拠なわけです。
そして寂しいのは、そういったリーダーは下の人間が選んでいるわけではないということ。だいたい、その上のリーダー達が選んだりしているんですよね・・・。
動物界におけるリーダー
動物にとってのリーダーは、種や群れの構造、行動様式に応じてさまざまな要因で決まります。
動物社会におけるリーダーシップは、通常、人間のリーダーシップとは異なり、社会的地位、戦闘力、知識、協調性などが関与します。
以下は、動物にとってのリーダーがどのように決まるかの主要なパターンです。
1. 力や優位性に基づくリーダーシップ
- 優位関係(ドミナンスヒエラルキー): 多くの動物社会では、リーダーは力や支配力に基づいて決まることが一般的です。例えば、オオカミの群れでは、通常最も強いオスとメス(アルファオスとアルファメス)が群れを率います。これらのリーダーは戦いや優位性の行動を通じてその地位を確立します。
- ゴリラ: ゴリラの群れでは、通常最も強く成熟したオス(シルバーバック)がリーダーとなります。このオスは、群れを守り、食料を見つける役割を果たします。リーダーは力と経験を兼ね備えた個体であることが多いです。
2. 知識や経験に基づくリーダーシップ
- 象(ゾウ): ゾウの群れでは、通常、最も年長のメスがリーダーとなります。メスのリーダーは「マトリアーク」と呼ばれ、長年の経験をもとに水源や食料を見つける知識を持っているため、群れを導きます。ゾウのリーダーは知識と判断力に基づき、そのリーダーシップは力ではなく経験に依存しています。
- シャチ: シャチも年長のメスがリーダーとなることが多いです。シャチのメスは長生きし、海を広範囲に移動する中で重要な食料源や繁殖地の知識を蓄えます。群れは、この知識を頼りにメスに従います。
3. 協力性や社会的な役割に基づくリーダーシップ
- ミツバチ: ミツバチのコロニーでは、女王蜂が繁殖の役割を担いますが、リーダーシップの観点からは、個々の蜂が集団として協力してコロニー全体を維持しています。特に、働き蜂たちは巣のメンテナンスや食料の確保、女王蜂の世話などの役割を分担します。このように、リーダーシップは分散型であり、協力によって社会が成り立っています。
- アリ: アリのコロニーでも、女王アリは繁殖に専念し、働きアリが食料調達や巣の防衛などの実務を行います。コロニー全体が一体となって活動し、リーダーシップは特定の個体ではなく、集団全体で機能します。
4. 一時的なリーダーシップ
- 草食動物の群れ(シマウマやガゼルなど): 草食動物の群れでは、特定のリーダーが固定されていない場合があります。移動や逃避行動の際に最初に動き出す個体が一時的なリーダーとなることがあり、その瞬間の状況に応じてリーダーが変わることもあります。例えば、最初に動き出す個体が危険を察知したとき、その個体が群れをリードすることになります。
5. 繁殖能力に基づくリーダーシップ
- ライオン: ライオンのプライドでは、通常、最強のオスがリーダーとなり、繁殖の権利を独占します。しかし、リーダーシップは常に挑戦されており、若いオスがリーダーの座を奪うこともあります。リーダーオスは群れを守る役割も担いますが、プライドのメスたちも協力して群れを維持します。
- チンパンジー: チンパンジーの社会では、リーダーオス(アルファオス)は繁殖の機会を得やすくなりますが、力だけでなく、群れの中で同盟を築いたり、他の個体に食料を分け与えたりと、社会的なスキルもリーダーシップに影響します。
6. 知的な能力や問題解決力に基づくリーダーシップ
- イルカ: イルカの群れでは、リーダーシップは力関係だけではなく、知的な問題解決力や協力行動が求められます。リーダーは食料探しや狩りで主導的な役割を果たすことがあり、他のメンバーと共に協調して活動することが重要視されます。
まとめ
動物にとってのリーダーシップは、種や群れの社会的な構造や目的に応じて異なります。
力や支配力でリーダーが決まる場合もあれば、知識や経験、協力性が重要な要素になることもあります。
また、固定されたリーダーがいない場合もあり、状況に応じて一時的なリーダーが現れることもあります。
リーダーシップは単純な力の問題だけではなく、社会的なつながりや適応能力も関係しているのです。
こうしてみると、私たち人間社会でのリーダーシップもどこまでが動物的で、どこからが人間的なのだろうと考えてしまいます。
人間も動物だと考えれば、チンパンジーと大差ないようにも思えてきますね・・・。
いや、私利私欲のために知恵を使うリーダーなら、チンパンジーも許さないか。
リーダーシップを強化する書籍
『リーダーシップ・チャレンジ』 – ジェームズ・M・クーゼス、バリー・Z・ポズナー
- 概要: リーダーシップの実践的なモデルを提示し、リーダーが成功するための具体的な行動指針を紹介しています。「模範を示す」「共通のビジョンを掲げる」など、リーダーとしての行動が詳しく解説されています。
- おすすめ理由: リーダーが実際に取るべき行動を学べる本。
『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』 – サイモン・シネック
- 概要: リーダーシップにおいて「なぜそれをするのか?」を明確にすることが、どれほど重要であるかを教えています。TEDで1700万界以上再生された「ゴールデンサークル」の概念を提唱し、ビジネスの成功には「WHY(なぜ)」が重要であると強調します。バイブルとの呼び声も高い一冊。
- おすすめ理由: ビジョンと使命感の持ち方を学びたいリーダーにおすすめ。
『あなたのチームは、機能してますか?』 – パトリック・レンシオーニ
- 概要: チームリーダーが直面する5つの「機能不全」を紹介し、それを乗り越える方法を具体例とともに説明しています。信頼構築、対立の管理、結果にフォーカスすることなど、チーム運営におけるリーダーシップのコツが詰まっています。
- おすすめ理由: チームマネジメントに悩むリーダーに特におすすめ。
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